1.ほとんどの中小企業は「実質一人会社」に該当し影響あり
 新会社法で最低資本金制度が撤廃され、個人事業者が「法人成り」することが容易になったことに対して、法人税法上の措置が講じられました。つまり、「実質一人会社」のオーナー社長の役員報酬については、給与所得控除額相当分を、法人の所得の計算上で損金不算入(経費にしない)ことになりました。
 これは、個人事業者が法人形態をとれば、オーナー社長の役員報酬について、法人段階で損金となり、さらに個人の給与所得の計算上、給与所得控除ができるという「経費の二重控除」を防ぐのを目的としています。
「実質一人会社」とは、「同族関係者で株式の90%以上保有し、かつ、常務に従事する役員の過半を占める会社」を言います。したがって、1人で出資し、1人で取締役をしている場合はもちろんのこと、家族がほとんどを出資して役員の大半をも占めている会社は、これに該当することになります。結果的に大半の中小企業が該当することになります。

 2.適用除外になるのは低収益な法人
 しかし次のような低収益な会社は、この規制の適用除外となります。
< 適用除外になる2つの場合 >
@法人の所得と社長報酬の合計額の3年間の平均額が800万円以下の場合
Aその平均額が3000万円以下で、その内、社長報酬割合が50%以下の場合

 3.安易な課税逃れは要注意
 上記の適用除外のボーダーライン付近の会社は、その事業年度の決算の所得によって適用が変化するという不安定な状況に置かれることになります。したがって、税務上の安定性のためには、事前に「実質一人会社」から外れるような方策を考えた方がよいことになります。つまり、同族関係者以外に10%以上の株を持ってもらうとか、常務を行う役員として、同族関係者以外の人に半数は入ってもらうとかです。(右上挿絵参照)


 ただし、経営上の必要がないのに友人同士の会社で株を持ち合うとか、会計事務所が11%の株を持つなどの対策は間違いなく否認されると考えた方が良いでしょう。
同族関係者以外に10%以上の株を持ってもらう方策をとる場合には、株主総会に権限が集中しないように「取締役会」を設置する道を選んだ方がよいかもしれません。そうなると、再び名目的な取締役会を設置する会社が増えるかもしれません。
 常務を行う役員の面では、例えば、同族関係者以外の役員を従業員から一人選任して、役員をオーナーと二人にすることが考えられるでしょう。しかしこの場合も名目だけのような役員は事実認定の上で、後に調査で否認されることになりますので注意が必要です。
この規制を逃れる方策は手間がかかりますが、紙面の都合で言及できませんが、なくはないといえます。しかし経営の実態がそれを受け入れることが出来るか否かなどをクリアしなければならない項目が数多くあります。

<牧口 晴一>


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